大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(レ)117号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕民法第六〇六条第一項は「賃貸人ハ賃貸物ノ使用及ヒ収益ニ必要ナル修繕ヲ為ス義務ヲ負フ」と規定している。これによると、一般に建物の賃貸人はその建物が破損した場合にその使用収益に必要な修繕義務を負うものとされるのであるが、いかなる状況のもとにおいても常に賃貸人に右義務を負わせるのは酷に失するといわねばならず、賃貸借の実体が経済関係である以上、賃貸人の右義務も賃料その他の経済的相対関係により自ら一定の限度があろう。ましてや、終戦後の地代家賃統制令により強度に家賃の抑制が行なわれて来た状況下にあつては、賃貸人はもはやその賃料中に賃貸物の修繕費を見込む自由を有さず、右自由の存在を前提とした民法の前記規定は大きくその基礎を失つたものというべきであり、したがつて右規定の適用も右法令の内容や今日の経済状態に即応して制限を受けるべきものと解される。すなわち、家賃統制下にある賃貸人の修繕義務は賃貸家屋の破損が甚しく賃借人の使用収益に著しい支障がある場合で、しかもその修繕の範囲と限度は賃料額との相関々係によつて合理的に減免され、その破損程度が賃借人の使用収益を妨げない限り、賃貸人は未だ修繕義務を負わないと解するのを相当とする。

そこで、これを本件について検討するに、本件家屋地代家賃統制令の適用を受け、その賃料は昭和二七年一月以降僅か月額六二三円に過ぎないところ、控訴人が賃料との相殺を主張している昭和三〇年一一月より昭和三四年六月までの修繕費金一万五、四一〇円は証拠上認定できるところによると金一万二、一九五円であつて、右期間中に被控訴人が収受し得べき賃料額に比し過大に失するものであり、また、その修繕の内容も本件家屋の大屋根の樋の取替工事、門の屋根瓦、門の側横の塀、玄関脇の塀、下屋根南および東南側樋の取替工事であつて、いずれも家屋の保存に必要な修繕であるとはいえ、その箇所、程度からみて明らかに控訴人において負担すべき範囲の修繕が含まれているばかりでなく、控訴人のその契約に定まつた使用収益が著しく阻害されるほどの破損のあつた場合の修繕でないことは明らかであるから、右費用は未だ被控訴人の負担すべき修繕義務の範囲に属する必要費とは認められず、これをもつて直ちに本件家屋の賃料と相殺することは許されない。(松本保之 大隅乙郎 白井万久)

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